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Air | まごころを、君に |
道路の真ん中に立つ制服姿の綾波レイ。
一瞬の後、彼女は消えた。
その直後に第3の使徒襲来。
初号機に乗るために担架で運ばれてくるレイ。体には包帯が巻かれ、苦痛に耐えて身体を起こす。
使徒の攻撃の衝撃で担架から投げ出されたレイ、彼女を抱きかえたシンジの手に赤い血が付く。
病院の廊下、担架で運ばれてゆくレイの目はシンジを見つめる。
教室、一人で窓の外を眺めているレイ。
第4の使徒襲来、トウジに殴られて倒れているシンジを見下ろすレイ。
「非常召集。先、行くから」
踵をかえし一人で駆けていく。
教室、一人で窓の外を眺めているレイ。
リツコのもとで身体検査を受けるレイ。
リツコ、ゲンドウと一緒にエスカレータに乗っている制服に包帯姿のレイ
22日前、零号機の起動実験に失敗して重傷を負うレイ。心配してエントリープラグに駆け寄ったゲンドウの呼びかけに小さくうなずく。
クラスメートから離れプールのわきに座っている水着姿のレイ。
ゲンドウとたのしそうにしゃべるレイ、それをシンジが初号機の中から見つめる。
レイの部屋の中。ベットの上には制服が置かれ、枕には血が付いている。冷蔵庫の上にはビーカーと薬品が置かれている。その横には血の付いた包帯の入ったダンボール箱がある。机を兼ねたタンスの上には数冊の本とゲンドウの眼鏡。鳴らないインターホン、むき出しのコンクリートの壁と閉じたカーテン、それが綾波レイの部屋。
勝手に上がり込んだシンジの背後にバスタオルを首からかけた裸のレイが立つ。シンジが掛けていたゲンドウの眼鏡に手をかけようとするレイ、あわてたシンジはレイに抱きつくように倒れ、シンジの鞄に引っかかったタンスの1段目が開き下着が二人に降りそそぐ。倒れたまま動けずにいるシンジにレイが口を開く。
「どいてくれる」
シンジがレイの胸に手をおいていることに気づきあわてて退く。
レイは裸のまま立ち上がり下着を身につけ、何か言おうとしているシンジに
「なに?」
うまく答えられないシンジ。レイはそのままベットの上の制服を着て眼鏡をケースにしまいシンジを残したまま出ていく。
歩道を歩くレイ、その後ろをシンジがついていく。
電車の中、座席に座るレイ。離れたところに座るシンジ。
ネルフ本部、レイはIDカードを通そうとするが拒否される。シンジは新しいIDカードをレイに渡し、レイは無言で受け取る。
エスカレータに乗るレイとシンジ、背後からシンジが話しかける、「さっきはごめん」
「なにが?」
戸惑うシンジだがさらに零号機に乗るのが怖くないのかをきく。
「どうして?」
シンジは前の実験の事故の話をするが、
「あなた、碇司令の子供でしょ、信じられないの?、お父さんの仕事が」
「当たり前だよ、あんな父親なんて」と答えるシンジにレイは向き直って平手打ちを食らわす。
更衣室、プラグスーツに着替えるレイ。
零号機の起動実験を行うレイ、エントリープラグの中にはゲンドウの眼鏡がおかれている。「レイ、聞こえるか」ゲンドウが話しかける。
「はい」
零号機は起動する、
「了解、引き続き連動試験に入ります」
第5の使徒襲来。
初号機の発進準備を見守るレイ。
いすに座っているプラグスーツ姿のレイ、膝にゲンドウの眼鏡をおいている、死にかけのシンジがモニターに映されている。
シンジの病室に食事をのせたカートを押して入ってくる。シンジは気づいて「綾波」
「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えます」
表情を変えず手帳を取り出して読み始めるレイ。
「碇・綾波の両パイロットは本日1730ケージに集合、1800初号機及び零号機起動、1805発進、同30二子山仮設基地到着、以降は別命あるまで待機、明朝日付変更と同時に作戦行動開始」
カートから服を取り出しベットの上のシンジに投げる。裸で起きあがるシンジ。
「これ新しいの、寝ぼけてその格好で来ないでね」
あわててシーツをたぐるシンジに、
「食事」
なにも食べたくないと言うシンジ、
「60分後に出発よ」
「またあれに乗るの?」
「ええそうよ」
「僕はいやだ、綾波はまだあれに乗って怖い目にあったことがないからそんなことが言えるんだ」と拒否するシンジ。
「じゃ寝てたら」
「初号機にはわたしが乗る」
「赤木博士が初号機のパーソナルデータの書き換えの用意、しているわ」
「じゃ、葛城一尉と赤木博士がケージで待っているから」
病室を出ていこうとして後ろ向きで、
「さよなら」
リツコとミサトから作戦を聞くシンジとレイ。
「レイは零号機で防御を担当して」
「はい」
「わたしは、わたしは初号機を守ればいいのね」
「そおよ」
「わかりました」
「時間よ、二人とも着替えて」
「はい」
更衣室でプラグスーツに着替えるレイとシンジ、シンジはきちんと服を畳んでいるが綾波は地面に服を投げ捨てている。
「これで死ぬかもしれないね」シンジ
「どーしてそういうことを言うの」
「あなたは死なないわ、わたしが守るもの」
レイの顔には決意がみなぎっている。
待機中、シンジと平行に座るレイにシンジが話しかける。
「綾波はなぜこれに乗るの?」
「絆だから」
「絆?」
「そう、絆」
「父さんとの?」
「みんなとの」
「強いんだな、綾波は」
「わたしには他に何もないもの」
「他になにもないって・・・」
「時間よ、行きましょ。じゃ、さよなら」
立ち上がり、月に照らされる綾波レイの姿。
使徒の攻撃から初号機を守る零号機、零号機は大破し崩れ落ちる。使徒を倒したシンジは、零号機のエントリープラグを抜き取り綾波を助けに向かう。プラグの扉を開け綾波に呼びかけるシンジ、気づいた綾波に向かい合って「自分には他になにもないってそんなこと言うなよ、別れ際にさよならなんて悲しいこと言うなよ」と泣きながら話しかける。
「なに泣いてるの?」
「ごめんなさい、こういうときどんな顔すればいいのか分からないの」
「笑えばいいと思うよ」
レイはゲンドウの笑顔を思い浮かべながら笑う。
教室、一人で机に座っているレイ。
ベンチに座り本を読んでいるレイ。アスカが横に立ち本の上に影が落ちる。綾波は影を避け本を読み続ける。アスカが自己紹介をする。「仲良くしましょ」
「どうして?」
「そのほうが都合がいいからよ、いろいろとね」
「命令があればそうするわ」
ミサトのマンション。第7の使徒を倒すためのコンビネーション訓練として、ユニゾンの練習をするシンジとアスカ。
ミサトがレイを連れてマンションに帰ってくる。シンジとアスカのユニゾンはうまくいっていない。ミサト「レイ」
「はい」
「やってみて」
「はい」
ヘッドフォンを着けるレイ。シンジとレイのユニゾンはうまくいく。
白い水着を着てプールで泳ぐレイ、プールから上がり青いタオルで髪を拭くのをシンジが見つめる。
リツコから第8の使徒発見の報告を聞くシンジ、アスカ、レイ。作戦担当はアスカに決まる。
「わたしは?」
レイと零号機は本部での待機を命じられる。
「はい」
特殊装備を見たアスカは作戦をいやがる。シンジが「あの、僕が・・・」と言おうとしたときレイが手を挙げる。
「わたしが弐号機で出るわ」
歩道を歩く3人、アスカ、シンジ、レイの順番。
ネルフ本部のゲート、シンジに続きIDカードを通そうとするが停電で動かない。
扉のボタンを押す。
「どの施設も動かない、おかしいわ」
「下で何かあったってこと?」
「そう考えるのが自然ね」
携帯電話でネルフ本部に連絡しようとするレイ。
「だめ、連絡つかない」
鞄から緊急時のマニュアルを取り出しベンチに座って読むレイ。
「とにかく本部へ行きましょ」
行動開始に当たってアスカがグループのリーダーになると提唱するが・・・、
「こっちの第7ルートから下に入れるわ」
シンジが手動ドアを開けるのを後ろで手を組んで見守るレイ。
道に迷って言い争いをするシンジとアスカ。
「だまって」
「なによ優等生」
「人の声よ」
日向が第9の使徒襲来を告げている。
「時間が惜しいわ、近道しましょ」
分かれ道、アスカは「右ね」
「私は左だと思うわ」
右へ進み使徒を肉眼で確認するアスカ。
分かれ道、シンジ「まただ」
「こっちよ」
一人で先に進むレイ
「あんた碇司令のお気に入りなんですってね」レイにからむアスカ。レイの前に立ちはだかり、「あんたちょっとひいきにされているからってなめないでよ」
「なめてなんかいないわ」
「それにひいきもされてない、自分で分かるもの」
行き止まり、手では開けられないところにドアがある。鉄パイプを手に取るレイ。
「しかたがないわ、ダクトを破壊してそこから進みましょ」
「ファーストって怖い子ね、目的のために手段を選ばないタイプ、いわゆる独善者ね」
レイ、アスカ、シンジの順にダクトを這って進む。シンジとアスカは言い争ってダクトの底が壊れ落っこちるがレイはうまく着地する。
エヴァを起動させるレイ、その顔に力がみなぎる。
零号機で横穴を這ってすすむ。
「縦穴に出るわよ」
縦穴をよじ登るが使徒の酸攻撃を受ける。
「いけない、よけて」
3機のエヴァはなんとか横穴に逃げ込むがライフルを落としてしまう。
「目標は強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりね」
アスカがオフェンス、ディフェンス、バックアップに別れて行動する作戦を立てる。
「いいわ、ディフェンスは私が」
アスカは自分がディフェンスになり、レイはバックアップになるように言う。
「わかったわ」
零号機は降下してライフルを拾いそれを初号機に投げて渡す。
作戦はうまくいき使徒を倒す。
街を見下ろす丘、シンジとアスカは寝転がりレイは座っている。星空の下で町に灯りが戻っていく。「灯りがないと人が住んでる感じがしないわ、ほらこっちのほうが落ち着くもの」と言うアスカ。
「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」
「てっつがくぅ〜」
「だから人間って特別な生き物なのかな?、だから使徒は攻めてくるのかな?」シンジの言葉にアスカは「あんたばかぁ?そんなのわっかるわけないじゃん」
シンクロテストを受けるレイ、アスカ、シンジ。その後リツコから報告を聞くレイ、アスカ、シンジ。
第10の使徒襲来、衛星軌道上から降下しようとする使徒に対し、ミサトの作戦を聞くレイ、アスカ、シンジ。「一応規則だと遺書を書くことになっているけどどうする?」と言うミサトの言葉に別にいいと答えるアスカ。
「わたしもいい、必要ないもの」
「僕もいいです」シンジ
作戦が終わったらステーキをおごるというミサト。アスカはレイに「あんたも今度は一緒に来るのよ」と言うが、
「わたし、いかない」
「どうして?」
「お肉、嫌いだもの」
ミサトはエヴァ3機を配置する地点を決める
「この配置の根拠は?」
「カンよ」
エレベータに乗ってエヴァのケージに向かう。アスカとシンジはしゃべっているがレイは無言。
配置地点で零号機に乗って待機するレイ。
使徒が落下してきた。スタート準備をする3機のエヴァンゲリオン。「いくよ」とシンジが言う。うなずくレイ。
電線を飛び越えて走る零号機、シンジが支えている使徒に近ずく。アスカに向かって、
「弐号機、フィールド全快」
プログナイフで使徒のATフィールドを切り裂く零号機、その隙間に弐号機がプログナイフを突き立て使徒を倒す。
ミサトとレイ、シンジ、アスカは碇司令に作戦の成功を報告する。
屋台のラーメン屋の前に立つレイ、シンジ、アスカ、ミサト。「ミサトの財布の中身ぐらい分かってるわ、優等生もラーメンならつきあうって言うしさ」とアスカ。
「わたしニンニクラーメンチャーシュー抜き」
少量づつよく噛んで食べるレイであった。
プラグスーツを介さずに直接肉体からハーモニクスを行う実験のためレイ、アスカ、シンジは裸でエントリープラグに乗り込む。「気分はどう?」とリツコが聞く。
「何か違うわ」
「レイ、右手を動かすイメージを描いてみて」
「はい」
模擬体の右手が動く。
その時ネルフ本部に第11の使徒が侵入、施設を浸食し始める。壁伝いに浸食する使徒に実験中の模擬体が犯される。悲鳴を上げるレイ。零号機の模擬体が苦痛のために動き出す。レイ、アスカ、シンジのエントリープラグを緊急射出させるリツコ。
使徒はリツコによって倒された。
湖に浮かぶ3機のエントリープラグ、その中には裸のレイ、アスカ、シンジがいる。
人類補完委員会での報告の中に見られる綾波。
第5の使徒ラミエル襲来、最初の適格者(ファーストチルドレン)、凍結解除されたエヴァ零号機にて初出撃、エヴァ零号機大破、だがパイロットは無事生還。
相田ケンスケの個人資料の抜粋も報告される。
第1回機体相互互換試験を受けるレイ、これはダミーシステム計画の準備試験でもあった。初号機のエントリープラグの中でレイの心の中には様々なイメージが入ってきた。それは詩となって紡ぎ出される。
山、重い山、時間をかけて変わるもの
空、青い空、目に見えないもの、目に見えるもの
太陽、一つしかないもの
水、気持ちのいいこと、碇司令
花、同じものがいっぱい、いらないものもいっぱい
空、赤い、赤い空、赤い色、赤い色は嫌い
流れる水、血、血の匂い、血を流さない女
赤い土から創られた人間、男と女から創られた人間
街、人の造り出したもの
エヴァ、人の造り出したもの
人は何?、神様が創りだしたもの?
人は人が造りだしたもの?
わたしにあるものは命、
心、心の容れ物、エントリープラグ
それは、魂の座
これは誰?、これは私、私は誰?、私は何?、私は何?、私は何?、私は何?
私は自分、この物体が自分、自分を作っている形、目に見える私
でも私が私でない感じ、とても変
体が溶けていく感じ、私が分からなくなる
私の形がきえていく、私でない人を感じる
誰かいるの?、この先に、
碇君?、この人知ってる、葛城三佐、赤木博士、
みんな、クラスメート、弐号機のパイロット、碇司令
あなた誰?、あなた誰?、あなた誰?
「どう?、レイ、初めて乗った初号機は?」リツコが話しかける。
「碇君の匂いがする」
「レイ、あがっていいわ」とリツコ
「はい」
第1回機体相互互換試験を受けるシンジ。ミサトの隣に立ちシンジの乗る零号機を見守るレイ。「綾波の匂いがする」、リツコにそう答えるシンジの心に綾波のイメージが入ってくる。裸のレイが笑ってシンジを見つめる。暴走を始める零号機。壁越しにレイを殴りつけようとする零号機にレイは微動だにしない。
司令室、ゲンドウと冬月がロンギヌスの槍について話している。その時ロンギヌスの槍を持ち零号機に乗ったレイはトンネルの中を歩いていた。
教室で雑巾を絞るレイ、それをシンジが見つめている。
シンクロテストを受けるレイ、アスカ、シンジ。初号機のモニターに映るレイをシンジは見つめる。
エレベータの中でシンジとレイは二人だけになる。シンジは後ろから話しかける。「明日父さんに会わなきゃならないんだ、何話せばいいと思う?」
「どおしてわたしにそんなこときくの?」
「ねえ、父さんってどんな人?」
「わからない」
「そう」
「それが聞きたくて昼間からわたしのほうを見てたの?」
「うん、掃除の時雑巾しぼってたろ、あれってなんかお母さんって感じがした」
「お母さん?」
「案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして」
頬を赤く染め、目が泳ぐレイ
「何を言うのよ」
墓地でゲンドウを迎えにきたネルフのヘリの中にレイが乗っている。ゲンドウとともに去っていくヘリ。
セントラルドグマにあるダミープラグ製造装置、LCLに満たされた試験管の中に入っているレイ。ゲンドウと向かいあう。
シンクロテストを受けるレイ、シンジ、アスカ。
更衣室の中でレイはアスカと二人。シンクロ率のよかったシンジを誉め殺しにするアスカ。レイは黙って一人で出てゆく。
「さよなら」
第12の使徒出現。ライフルを持って待機するレイと零号機、司令部のモニターにレイ、アスカ、シンジが映る。アスカと言い争いをするシンジは「戦いは男の仕事、お手本を見せてやるよアスカ」と言う。怒ったアスカはバックアップにまわる。そしてレイも、
「零号機もバックアップにまわります」
「綾波、アスカ、そっちの配置はどお?」、使徒に接近し状況を聞くシンジ。
「まだよ」
単独で使徒に攻撃をかけた初号機は突然足下に現れた使徒に飲み込まれる。沈み始める初号機。
「碇君?」
零号機は上空の使徒の影を撃つ。
後退を宣言するミサトにレイは、
「待って!、まだ初号機と碇君が」
しかしミサトは残った零号機と弐号機に対し後退命令を出す。
待機中のレイとアスカ。シンジの独断専行を責めるアスカの前に立ちアスカを見つめるレイ。レイの顔にはいつになく感情が表れている。「シンジの悪口を言われるのがそんなに不愉快?」と聞くアスカに、
「あなたは人に誉められるためにエヴァに乗ってるの?」
初号機の中、シンジが夢を見ている。電車の中でもう一人の自分と対峙するシンジ。その夢の中で、シンジに平手打ちを食らわすレイが出てくる。
「お父さんのこと、信じられないの?」
初号機救出作戦の開始直前に暴走を始めた初号機、それを呆然と見つめるミサト、リツコ、アスカ。レイも冷静にそれを見つめている。
病室で寝ているシンジの隣でイスに座って本を読んでいる制服姿のレイ。気づいて起きあがるシンジに、
「今日は寝ていて、あとは私たちで処理するわ」
「でももう大丈夫だよ」
「そう、よかったわね」
その言葉にシンジは狼狽し、レイは病室を出ていく。
エスカレータをゲンドウと一緒に登る制服姿のレイ。「レイ、今日はいいのか?」とゲンドウが聞く。
「はい、明日赤木博士のところに行きます、明後日は学校へ」
「学校はどうだ?」
「問題ありません」
レイのパーソナルが移植された試作のダミープラグが登場、
ダミー製造装置の中でLCLにつかるレイ、前にはリツコとゲンドウがいる。「レイ、上がっていいぞ」と言うゲンドウ。
「はい」
「食事にしよう」
「はい」
綾波レイの部屋、シンジとトウジが学校のプリントを届けるためにやってくる。誰もいない部屋、またもや勝手に入るシンジ。トウジも一緒だ。枕に着いていた血は消え冷蔵庫の横のダンボール箱は無くなっている。机兼タンスの上にはゲンドウの眼鏡が置かれている。ベッドの前に散らかっているゴミを片づけるシンジ。レイが帰ってきた。「おじゃましとるでー」と言うトウジ。
「なに?」
プリントを持ってきたことを告げるトウジ。ゴミを勝手に片づけたこと告げるシンジにびっくりした様子で赤くなるレイ。
「あ、ありがとう」
シンジが帰ったあと制服のままベットにうつ伏せに寝転がるレイは一人つぶやく。
「ありがとう、感謝の言葉、初めての言葉、あの人にも言ったことなかったのに」
シンクロテストを受けるシンジ、アスカ、レイ。
教室のレイ、シンジとアスカを見ている。
学校の屋上、一人でいるトウジの後ろに立ち話しかける。
「鈴原君」
「なんや、綾波か。シンジやったらここにはおらへんで、知っとんのやろワシのこと?」
「うん」
「人の心配とはめずらしーな」
「そう?、よく分からない」
「おまえが心配しとるのはシンジや」
一瞬驚くレイ、そしてつぶやく。
「そう?、そうかもしれない」
待機中の零号機、初号機、弐号機。「松代で事故?、そんな、じゃミサトさん達は?」と聞くシンジにレイが答える。
「まだ連絡とれない」
「使徒相手に僕らだけで」
「今は碇司令が直接指揮を執ってるわ」
第13の使徒出現、近接戦闘は避け目標を足止めしろとレイに指示するゲンドウ。
「了解」
参号機と融合した使徒の背後からライフルで照準を定めるレイと零号機。レイは確信する。
「乗っているわ、彼」
その時突然視界から使徒が消え、背後から襲いかかってきた。使徒の酸攻撃を左腕に受けて苦しむレイ。左腕に使徒が侵入し神経接続を犯される零号機にゲンドウは左腕の切断を指示する。神経接続されたままの左腕を切断され苦しむレイ。「零号機中破、パイロット負傷」マヤが報告する。
フォースチルドレンの乗っている使徒との戦いを拒むシンジ。ゲンドウは初号機のダミーシステムへの切り替えを指示する。
シンジの病室の前でベンチに座るレイ、手には包帯をしている。アスカが隣に立っている。
「碇君は?」
アスカに聞くレイに「今頃夢でも見てんじゃないの」と答えるアスカ。
「ゆめ?」
怪訝な顔をするレイ。
「そう、夢、あんた見たことないの?」
トウジの夢の中。電車の中でシンジと綾波が向かいあって座り何か口げんかをしている。それは同時にシンジの夢の中でもあるのか。
「碇君、どうしてあんなことしたの?」
「許せなかったんだ、父さんは僕の気持ちなんか分かってくれないんだ」
「碇君は分かろうとしたの?、お父さんの気持ちを」
「分かろうとした」
「なぜ分かろうとしないの?」
「分かろうとしたんだよ!」
「そうやって嫌なことから逃げているのね」
「いいじゃないか、嫌なことから逃げて何が悪いんだよ!」
第14の使徒襲来。零号機は左腕の再生がまだ済んでいない。「レイは初号機で出せ、ダミープラグをバックアップとして用意」ゲンドウが命じる。初号機の起動に失敗するレイ。
「だめなのね、もう」
「私を拒絶するつもりか」、「レイは零号機で出撃させろ、初号機はダミープラグで再起動」、そう命じるゲンドウに反対するミサト。レイは、
「かまいません、いきます」
そして一人つぶやく。
「私が死んでも替わりはいるもの」
初号機のダミープラグでの再起動は失敗した。ダミーを拒絶した初号機に「ダミーを、レイを」、「受け入れないのか」とリツコと冬月がつぶやく。
弐号機を倒して迫り来る使徒に対し、左腕のない零号機が攻撃を開始するのをシンジは見る。「綾波?、ライフルも持たずに?」
右手にN2爆弾を持って使徒に突撃するレイと零号機。「自爆する気?」、「レイ!」、リツコとゲンドウが叫ぶ。
「ATフィールド全開」
使徒のATフィールドを徐々に破りつつN2爆弾を使徒のコアに接触させようとするが、使徒がコアにカヴァーをかけ攻撃は失敗する。爆発するN2爆弾。生き残った使徒は零号機を攻撃し、零号機は大破し崩れ落ちた。
ダミープラグでの再起動を繰り返すゲンドウ。しかしダミーは初号機に拒絶される。そこにシンジが現れる。
病室、左目に包帯を巻いたレイが目覚める。
「まだ、生きてる」
シンジの夢の中、エスカレータに乗るシンジとレイ。レイが背後のシンジに言う。
「なぜお父さんが嫌いなの?」
「当たり前だよ、あんな父親なんて」
「お父さんが分からないの?」
「当たり前だよ、ほとんど会ったことないのに」
「だから、嫌いなの?」
「そうさ、父さんは僕がいらないんだ、父さんが僕を捨てたんだ」
「その替わりが私なの?」
「そうさ、そうに決まってる、綾波がいるから僕は捨てられたんだ」
シンジの背後に幼いレイが立つ、そして言った。
「自分から逃げ出したくせに」
シンジの夢の中、エレベータの中のシンジとレイ。背後のシンジにレイが訊ねる。
「寂しいって何?」
「これまでは分からなかった、でも今は分かる気がする」
「幸せって何?」
「これまでは分からなかった、でも今は分かる気がする」
「優しくしてくれる?、他の人が」
「うん」
「どうして?」
「それは僕がエヴァに乗っているから」
シンジの夢の中、電車の中で向かいあって座るシンジとレイ。みんなに優しくしてもらうためにはエヴァに乗らなければならないと言うシンジ。レイが訊ねる。
「乗って?」
「戦う」
「戦って?」
「勝たなきゃいけない」、そのことに煩悶するシンジ「みんな僕に優しくしてよ!」と叫ぶ。「優しくしてるわよ」とミサトの声。「私と一つになりたい?」裸のミサトが迫る。「心も体も一つになりたくない?」裸のアスカが迫る。
「碇君、私と一つになりたい?、心も体も一つになりたい?、それはとてもとても気持ちいいことなのよ、碇君」
優しく微笑む裸のレイが迫る。
「とてもとても気持ちいいことなのよ」
シンジのサルベージ計画が始まった。
シンジの心象風景の中のアヤナミ、綾波。
「碇君?」
煩悶するシンジに裸のミサト、アスカ、レイが優しく微笑みながら繰り返し問いかけてくる。
「何を願うの?」
2010年、ゲンドウに連れられた幼いレイ。赤木ナオコとリツコに会った。幼いレイが碇ユイに似ていることに気づくナオコ、調べてみるとレイの全ての記録は抹消済みであった。
夜中にナオコのもとにやって来る幼いレイ。ナオコはどうしたのか訊ねる。
「道に迷ったの」
「あらそう、じゃあたしと一緒に出ようか?」
「いい」
「でも一人じゃ帰れないでしょ」
「大きなお世話よ、ばあさん」
「なに?」
「一人で帰れるからほっといて、ばあさん」
「人のことばあさんなんて言うもんじゃないわ」
「だってあなた、ばあさんでしょ」
碇所長に怒ってもらわないといけないと言うナオコであったが、幼いレイは笑いながら言った。
「所長がそう言ってるのよ、あなたのこと、ばあさんはしつこいとか、ばあさんは用済みだとか」
ナオコの心の中で幼いレイの言葉が響き、幼いレイと碇ユイが交差する。逆上するナオコ、「あんたなんか死んでも替わりはいるのよ、レイ」、そういって幼いレイの首を絞め、殺してしまう。
シンクロテストを受けるアスカとシンジとレイ。アスカの結果は芳しくない。
エレベータの中、アスカが入ってくる。そこには既にレイがいた。長い沈黙の後、レイが背後のアスカに話しかける。
「心を開かなければ、エヴァは動かないわ」
アスカは向き直り「心を閉ざしいてるって言うの?、このあたしが」
「そう、エヴァには心がある」
「あの人形に?」
「わかってるはずよ」
「シンジだけでなく機械人形みたいなあんたに同情されるとは、この私も焼きがまわったわね」、からむアスカにレイは言う。
「私は人形じゃない」
「人に言われたまま動く人形のくせに、あんた碇司令が死ねと言ったら死ぬんでしょ」なおもからむアスカ。
「そうよ」
「やっぱり人形じゃない!」、アスカはレイを叩く。アスカに叩かれたレイの頬が赤くなり、アスカは一人でエレベータを下りた。
第15の使徒襲来。先行して攻撃を受けるアスカと弐号機。レイと零号機は長距離砲の照準を使徒に合わせて撃つ。砲撃はATフィールドに阻まれ跳ね返された。
ゲンドウの命令によりターミナルドグマに降りた零号機は巨人に刺さっているロンギヌスの槍を引き抜く。
地上に出てロンギヌスの槍の投擲体勢に入る零号機。レイの顔に力がみなぎる。零号機はロンギヌスの槍を使徒に向かって投げつけた。槍によってATフィールドを貫かれた使徒は消滅する。
第16の使徒襲来。ライフルを構え待機するレイと零号機。使徒の性質がつかめないミサトはレイにしばらく様子を見るように言うが、
「いえ、来るわ」
レイがそう言うと同時に使徒は変形し零号機に襲いかかる。回避が間に合わず使徒にATフィールドを破られ浸食を受ける零号機。レイは使徒を掴みながらライフルを撃ち込むが効かない。使徒は零号機と融合しようとする。苦しむレイ、救援のために出撃した弐号機はアスカのシンクロ率の低下のために動かない。さらに浸食されるレイと零号機。
レイの意識の中、自分の心の中に入ってきた使徒と向かい合うレイ。LCLの上に浮遊する綾波レイと、LCLに膝まで浸かった綾波レイの姿を借りたプラグスーツ姿の使徒がいる。
「誰?、わたし、エヴァの中の私、いえ、わたし以外の誰かを感じる、あなた誰?、使徒、私たちが使徒と呼んでいるひと」
綾波レイの姿を借りた使徒がうつむいたまま語りかける、「私と一つにならない?」
「いえ、私は私、あなたじゃないわ」
「そう、でもだめ、もう遅いわ、私の心をあなたにも分けてあげる」、「この気持ち、あなたにも分けてあげる、痛いでしょ?、ほら、心が痛いでしょ?」、綾波レイの姿を借りた使徒が顔を上げレイと向き合う。いっきに浸食されるレイ。
「痛い、いえ違うわ、寂しい」
「そう、寂しいのね」
「寂しい?、分からないわ」
「一人が嫌なんでしょ?、私たちはたくさんいるのに、一人でいるのが嫌なんでしょ?」
「それを寂しい、というの?」
「それはあなたの心よ、哀しみに満ち満ちているあなた自身の心よ」、綾波レイの姿を借りた使徒が笑う。
零号機のコクピットの中、レイの膝に涙がこぼれ落ちる。
「これが涙?、泣いてるのは、わたし・・・?」
凍結を解除された初号機がレイを救出するために出撃する。使徒の攻撃を受ける初号機、振り返るレイ。
「碇君!」
「これは私の心、碇君と一緒になりたい」
「だめ」
レイは決意する。
一気に浸食される零号機。
「レイ、機体を捨てて逃げて」、ミサトが命じる。
「だめ。私がいなくなったらATフィールドが消えてしまう。だから、だめ」
レイはコクピットの中にある自爆装置を作動させた。
涙を溜めた瞳にゲンドウの笑顔が映る。
零号機は自爆する。
第3新東京市とともに光と熱となり、彼女は消えた。
病院、窓の外を眺めるレイ。シンジが駆け寄る。ベンチに座る包帯に制服姿のレイにシンジが話しかける。「よかった、綾波が無事で。ありがとう、助けてくれて」
「なにが?」
「何がって、零号機を捨ててまで助けてくれたんじゃないか、綾波が」
「そう、あなたを助けたの」
「覚えてないの?」
「いえ、知らないの。たぶん私は3人目だと思うから」
無表情にレイが言う。
綾波レイの部屋。鏡に自分の顔を映すレイ、既に包帯はしていない。机の上の眼鏡、冷蔵庫の上のビーカーを見る。ゲンドウの眼鏡を手に取り握りつぶそうとするレイ、その時涙がこぼれる。
「これが涙、初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする」
「私泣いてるの?、なぜ、泣いてるの?」
瞳に涙を湛えたレイの顔がいつもより幼く見える。
セントラルドグマ、その研究室。そこは綾波レイの部屋に似たところ。リツコ、ミサト、シンジがいる。全ての秘密を聞き出そうとするミサトにリツコはダミープラグ製造装置を見せる。「これがダミープラグの元だというの?」ミサトは驚く。「真実を見せてあげるわ」リツコがリモコンのスイッチを入れた。巨大なLCLの水槽が映し出される。
水槽の中には無数の綾波レイが漂っている。その笑った顔が一斉にミサト達のほうに振り向いた。リツコは説明する。「ダミーシステムのコアとなるその生産工場、ここにあるのはダミー、そしてレイのためのただのパーツに過ぎないわ」、「魂の入った容れ物はレイ一人だけ、あの子にしか生まれなかった」、「ここに並ぶレイと同じ物には魂がない、ただの容れ物なの。だから壊すの、憎いから」、リモコンのスイッチを入れるリツコ。
笑いながら崩壊していく無数のレイの体、レイの笑い声がこだまする。
責めるミサトにリツコは言った。
「人じゃないわ、人の形をしたモノなのよ。だけどそんな物にも負けた」
シンジは自分の部屋で綾波を思い出している。LCLの水槽に浸かった無数の綾波レイ、3人目のレイ。
シンクロテストを受けるレイとシンジとカヲル。
エスカレータに一人で乗り登っていくレイ。その上ではフィフスチルドレンのカヲルが待っていた。レイと向かい合ったカヲルは、レイに話しかける。
「君がファーストチルドレンだね」
「綾波レイ、君は僕と同じだね」
「あなた誰?」
綾波レイの部屋。レイはベットにうつ伏せに寝転がっている。一人つぶやくレイ。
「わたし、なぜここにいるの。わたし、なぜまた生きてるの。何のために、誰のために。フィフスチルドレン、あの人私と同じ感じがする。どうして」
天井、ビーカー、月、ゲンドウの眼鏡、カヲルの顔が映し出される。
第17の使徒襲来、使徒(カヲル)は弐号機を操りターミナルドグマに降り立った。使徒の張る強力な結界の前にモニター不能に陥る司令部、弐号機に足止めされる初号機。使徒はヘヴンズドアのロックを解き内部に侵入、アダムと呼ばれる巨人と向き合う。ネルフ本部の自爆を決意するミサト、その時、強力なATフィールドを使い結界を越えて侵入する者があった。
制服姿のレイが空中に静止し、巨人と向き合う使徒(カヲル)を見下ろしている。
使徒(カヲル)は巨人がアダムではなくリリスであることに気づく。弐号機を倒し使徒の前に現れるシンジの初号機。初号機は人の形をした使徒(カヲル)をその手に握りしめた。カヲルはシンジに「遺言」を伝える。「さあ、僕を消してくれ、そうしなければ君たちが消える。滅びを免れ未来を与えられる生命体は一つしか選ばれない。そして君は、死ぬべき存在ではない。」
そしてカヲルは空中から見下ろしているレイを見上げて微笑んだ。
洗浄される初号機をゲンドウとともに見ているレイ。
シンジの心理の中、使徒(カヲル)を殺したことに苦悶するシンジ。なぜ殺した。同じ人間だったのに。「違う、使徒だったんだ」、シンジの前にレイが立つ。
「私と同じ人だったのに」
「違う使徒だったんだ」
「だから殺したの?」
「そうだ、ああしなければみんな殺されちゃうんだ」
「だから殺したの?」
なぜエヴァに乗るのか、自己の存在に苦悶するシンジ。アスカが現れシンジを責める。
「人から幸せを与えられようとただ待ってるだけじゃないの、偽りの幸せを」
その後ろにレイが立つ。
「それはあなたも同じでしょ」
アスカの心理の中、苦悶するアスカ。「エヴァに乗れないパイロットなんて誰もいらないのよ」
「他人の中に自分を求めていいるのね」
分離の不安、
「一人になるのが怖いんでしょ」
「他人と一緒に自分もいなくなるから怖いんでしょ」
綾波レイの心理の中、彼女もまた自己の存在について考えていた。心の内にいる何人もの綾波レイが彼女に呼びかける。
「私は誰?」
「綾波レイ」
「あなた誰?」
「あなたもまた綾波レイなの?」
「そう、綾波レイと呼ばれているもの」
「みんな綾波レイと呼ばれているもの」
「どうしてみんな私なの?」
「他の人たちがみんな私たちを綾波レイと呼ぶからよ」
「あなたは偽りの心と体をなぜ持っているの?」
「偽りではないわ、私は私だもの」
「いいえ、あなたは偽りの魂を碇ゲンドウという人間によって造られた人なのよ」
「人の真似をしている偽りの物体に過ぎないのよ」
「ほら、あなたの中に暗くて何も見えない、何も分からない心があるでしょ。本当のあなたがそこにいるの」
「私は私、私はこれまでの時間と他の人たちとのつながりによって、私になったもの」
「他の人たちとのふれあいによって、今の私が形作られている」
「人とのふれあいと時の流れが、私の心のかたちを変えていくの」
それが絆
「そう、綾波レイと呼ばれる今までの私をつくったもの、これからの私をつくるもの」
それが絆
「でも本当のあなたは他にいるのよ、あなたが知らないだけ。見たくないから、知らないうちに避けているだけ」
怖いから
「人の形をしていないかもしれないから。今までの私がいなくなるかもしれないから」
怖いのよ
「自分がいなくなるのが怖いのよ。みんなの心の中から消えるのが怖いのよ」
「怖い?、分からないわ」
「自分だけの世界も、なくなるの」
怖いでしょ?
「自分が消えるのよ」
怖いでしょ?
「いえ、嬉しいわ。私は死にたいもの」
「ほしいものは絶望、無へと帰りたいわ」
「でもだめ。無へは帰れないの。あの人が帰してくれないの。まだ帰してくれないの」
「あの人が必要だから私はいたの、でも終わり。いらなくなるの私。あの人に捨てられるの、私」
「その日を願っていたはずなのに・・・今は怖いの」
顔を伏せるレイ。ゲンドウがレイの前に立つ。「さあ行こう、今日この日のためにおまえはいたのだ、レイ」
立ち上がるレイ。
「はい」
そして、人類の補完が始まる。
ミサトの心理の中。寂しさをセックスで紛らわしているミサトの姿があった。
私は幸せなの?
ミサトが反撥する。「違う、これは幸せなんかじゃない」
幸せって何?
「こんなの本当の自分じゃない、そう思いこんでるだけなの」ミサトは叫ぶ。
「そうしないと僕らは生きていけないのか?、一緒にいないと怖いんだ」シンジの言葉をレイが受ける。
「不安なのよ」
再びシンジの心理の中。シンジの周りにみんなが現れる。人類補完計画の正体を知るシンジ。現実の世界、人の心が創り出す世界像。
「真実は私たちにも分からないもの」アスカ
「ただ自分で感じているものが事実でしかないわ」リツコ
「あなたの中のね」
シンジの心が創り出した世界像。否、それは世界そのもの。
「あなたの望んだ結果なのよ」ミサト
「僕が望んだ?」
「そうよ。破滅を、誰も救われない世界を」
「違う、誰も救ってくれなかっただけだ。僕を」
「誰もあなたを救えないわ」リツコ
「これは君が望んだことだ」加持
「破滅を、死を、無への回帰を。あなた自身が望んだのよ」アスカ
「これが現実なのよ」ミサト
「現実ってなんだ?」
「あなたの世界よ」
自分自身によって創られてゆく世界に対して、シンジの懐疑は広がってゆく。
「この暗闇も、この半端な世界も全て僕が望んだというのか?」
「そうよ」
閉塞された自分のためだけの世界、他の人が生きてはいけない世界、嫌なものを排除したより孤独な世界。そうしようと思えば別の世界を創ることもできるはずなのに・・・。
「それが、導き出された小さな心の安らぎの世界」
「この形も終局の中の一つ」アスカ
「あなた自身が導いたこの世の終わりなのよ」ミサト
そして、補完への道は、つづく。
シンジの心の補完。
「自分がいなくなること」アスカ
「でもこんな自分ならいなくなってもいいと思う」シンジ
「どうして?」
「だって私はいらない人間だもの」アスカ
「やっぱり僕はいらない子供なんだ、僕のことなんかどうでもいいんだ」シンジ
「そうよ、私たちはみんな同じなのよ」ミサト、「心がどこか欠けているの」リツコ、「それが怖いの」アスカ、
「不安なの」
「だから今一つになろうとしている」ミサト、「お互いに埋めあおうとしている」アスカ、
「それが、補完計画」
一人の弱さを埋めあうために、
「一つになりたいのね」
人は心も体も弱いものでできている。
ゲンドウが言う。「だからお互いを補完しなければいけない」
何故?
「そうしなければ生きていけないからだ」
本当に?
「なぜ、生きてるの?」
分からない
「それが知りたくて生きているのかな?」アスカ
「誰のために生きているの?」
「もちろん私のためよ」アスカ、「たぶん自分のために」シンジ
本当に?
「生きていて嬉しい?」
「分からない」シンジ
「生きていて嬉しい?」
「嬉しいに決まってるわよ」アスカ
「生きていて嬉しい?」
「たのしいことしかしたくないの」ミサト
辛いこと、寂しいことから逃げちゃだめだと自分に言い聞かせるシンジ
「どうして逃げてはいけないの?」
「逃げ出したら辛いんだ」
「辛いことから逃げ出したのに?」
「辛かったんだよ!」
「本当に嫌だったら逃げだしてもいいの」
「でも嫌だ、逃げるのはもう嫌なんだよ。そう、逃げちゃだめだ」
「それはただ逃げるほうがもっと辛いと感じているからよ」ミサト
「逃げ出したつらさを知ったから」アスカ
「だから逃げるのが嫌なのね」
逃げ出したら誰も相手にしてくれない、僕を捨てないで。シンジは叫ぶ。自分の価値を顧みないシンジ。それはレイも同じかもしれない。
「私には何もないもの」
「エヴァに乗ることで僕は僕でいられる」、「エヴァに乗ることで私は私でいられる」シンジ、アスカは自由な自分の価値を見いだせない。それはレイも同じかもしれない。
「他には何もないもの」
「僕には何もない、何もない」、生きる価値が。「僕は僕が嫌いなんだ」
公衆電話の受話器を持つシンジ、受話器の向こうからはシンジを嫌いだというみんなの声が聞こえる。
「ほら、みんなそう思ってる。きっとそう思ってるんだ」
「そう思いこんでいるだけでしょ」
「違う、だって僕は僕が嫌いだもの」
「だからみんなもそうだと思いこんでいる」
しかし、エヴァに乗るとみんなが誉めてくれる。
だからうれしい。
人に誉められたいんだ
でもうれしくない
「どっちが本当の気持ちなの?」
分からない、どっちも本当の気持ちだ、そして今の僕にはエヴァしかないとシンジは言う。
「そうしないと自分が保てないのね」
なぜエヴァに乗るのか?それが僕の全てだから。そんなシンジにアスカは言った。
「そのうちエヴァがなければ何もできなくなるのよ、私みたいに」
「雨、憂鬱な気分、僕の気分みたいだ。好きじゃない」シンジ
「夕日、消えていく命、私の願い。好きじゃない」
「朝、今日の始まり、嫌な一日の始まり。好きじゃない」アスカ
「何を願うの?」ミサト
不安が怖い?
「何が欲しいの?」アスカ
安らぎが欲しい?
「何を求めているの?」
嫌わないで
「怖いものは、」シンジ
拒絶
「欲しいものは、」
接触と承認
「そばにいてもいいの?」シンジ
「ここにいてもいいの?」
「私のこと好き?」アスカ
幼いアスカが問いかける、「ママのところへ行きたいの?」
「行きたくない」アスカ
幼いシンジが問いかける、「お父さんのところへ行かないの?」
「行きたくない」シンジ
シンジとアスカの背後に立つ幼いレイ、
「どうして?」
怖いから、嫌われるのが怖いから、消えてしまうのが怖いから。
だから?
「何を願うの?」ミサト
不安の解消
「何を求めるの?」
寂しさの解消
”誰も僕を捨てない、大事にしてくれるだけの価値”を欲しがるシンジ。しかしそれは自分自身が認めるしかないもの。
「僕には価値がない」シンジ
「生きて行くだけの価値がない。」アスカ
LCLに漂う無数のレイが一斉に振り向く。
「ではあなたは何?」
じゃ僕って何?、どこにいるんだ?、僕ってなんなんだ?
だから心の閉塞を願う。
自分のかたちに疑問を抱くシンジ、僕ってなんだ?、どこにいるんだ?
「あなた、ただ、あなた自身の広がりと境目があるの」
「そうだ、僕の服、僕の靴、僕の部屋。それらが僕の一部。」
「あなたの意志でつながっている、もの」
「僕と感じているものが僕、僕は僕自身でしかないのか?、でも僕は分からない、僕はどこにいるんだ?、僕ってなんなんだ?、僕ってなんなんだ?、誰も僕のことなんて分かってくれないんだ」
だから心の閉塞を願う。
「あんたバカァ、そんなの当たり前じゃん。誰もあんたのことなんかわかんないわよ」アスカ、「あなたのことをいたわり理解できるのはあなた自身しかいないのよ」ミサト、
「だから自分を大事にしなさい」
「そんなこと言ったって自分が無いんだ、分からないんだ、大事にできるわけないよ」
「やはり不安なのよ」
「今のあなた」ミサト、
「今のあなたの周りの人々」アスカ、
「今のあなたを取り巻く環境」
「どれもずっと永遠に続くものではないわ」ミサト、
「あなたの時間は常に流れ」アスカ、
「あなたの世界は変化の連続でできている。何よりもあなたの心次第で、いつでも変わるものなのよ」
何もない世界に一人投げ出されるシンジ。それが自由。
「そのかわりに何もない」
「僕が考えない限り?」、「そんな、どうしたらいいのか分からないよ」
「不安なのね」
「自分のイメージがないのね」アスカ
漠然としすぎている、何もつかめない世界。それが自由。
どうしたらいいか分からないシンジ。「不自由をやろう」ゲンドウの言葉によって大地がつくられる。「ほら、これで天地ができたわ」アスカ
「でもこれで自由が一つ、消えた」
「あなたは地に立たなければならない」ミサト
しかしその世界も自分自身とともに変えていくことができる。時の流れと自分の意志によって。みんながシンジに説明する。
そして、誰もいない世界で人は自分のかたちをつかめない。自分以外の存在がないと自分のかたちがつかめない。他の人の形を見ることで、他の人の壁を見ることで自分のかたちを知ることができる。ミサトはシンジに説明する。
「あなたは他の人がいないと自分が見えないの」
シンジは他の人がいるから自分がいられる、一人はどこまで行っても一人でしかないことに気づく。
「他人との違いを認識することで自分をかたどっているのね」ミサト
「一番最初の他人は、母親」
「母親はあなたと違う人間なのよ」アスカ
「そう、僕は僕だ、ただ他の人たちが僕の心の形を作っているのも確かなんだ」
「そうよ、碇シンジ君」ミサト
「やっと分かったの」アスカ
シンジの心に現れた一つの世界、エヴァのパイロットではない世界。
走って学校に向かう幼なじみのシンジとアスカ。今日来る転校生の話をしている。
「ああ、遅刻遅刻。初日から遅刻じゃかなりやばいって感じだよね」
食パンを口にくわえて走ってくるレイ。曲がり角で走ってきたシンジと激突する。
♪☆♪★♪☆♪★♪☆♪デフォルメされたシンジとレイがぶつかる。♪☆♪★♪☆♪★♪☆♪
「あ・い・た・た・た・たっ・・・、あっ、ごめんね、マジで急いでたんだ」
倒れ込んだレイはスカートを手繰り、また立ち上がって走り出す。
「ほんとゴメンね〜」
振り返ってそう言って駆けていく。
学校の教室、ミサト先生が転校生を紹介する。明るく自己紹介をするレイ。
「綾波レイです。よろしく」
「あー」とシンジ。レイもシンジを見つけて、
「あーんた、今朝のパンツ覗き魔!」
アスカがシンジをかばう。「あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない!」
レイはアスカに向かい、
「あんたこそ、なにすぐにこの子かばっちゃってさ、なにできてるわけ二人?」
クラスが笑いにつつまれる。
元の世界に戻ったシンジ、
「そうだ、これも一つの世界、僕の可能性。今の僕が僕そのままではない、いろいろな僕自身があり得るんだ。そうだ、エヴァのパイロットではない僕もあり得るんだ」
シンジの周りにみんなが現れる。現実を形作っているのは自分自身の心。現実を嫌だと捉えている自分、でも、現実を見る角度を置き換えれば世界も変わる。現実は人の数だけ存在するが、歪められた狭量な、自分の小さな物差しでしか測れない世界観を植え付けられている。与えられた他人の真実でしか物事を見ようとはしない。
「晴れの日は気分良く」ミサト
「雨の日は、憂鬱」
「そう教えられたらそう思いこんでしまう」アスカ
雨の日だって愉しいことはあるのに・・・。受け取り方一つでまるで別物になってしまう脆弱なもの、それが人の持つ真実。
「ただおまえは人に好かれることに慣れていないだけだ}ゲンドウ
「だからそうやって人の顔色ばかり伺う必要なんてないのよ」ミサト
シンジはなおも問いかける。「でも、みんな僕が嫌いじゃないのかな?」
アスカが答える。「あんたバカァ?、あんたが一人でそう思いこんでるだけじゃないの」
「でも、僕は僕が嫌いなんだ」
優しく微笑むレイがシンジにささやく。
「自分が嫌いな人は、他人を好きに、信頼するように、なれないわ」
「自分が分かれば優しくできるでしょ」ミサト
シンジを取り巻く世界が崩壊してゆく。
「僕は僕が嫌いだ、でも好きになれるかもしれない。僕はここにいてもいいのかもしれない。そうだ、僕は僕でしかない、僕は僕だ!。僕でいたい!。僕はここにいたい!。僕はここにいてもいいんだ!」
そしてシンジの前に新しい世界が広がった。
シンジを取り巻くみんな。拍手をしながら一人ずつシンジに「おめでとう」と言う。
レイもまた笑顔で拍手をしながら、
「おめでとう」
「ありがとう」
綾波レイの部屋。ベットに寝ているレイ、月明かりがレイの顔を照らしている。目を覚まし、ベットの上で身を起こしたレイは窓の外の月を見つめる。
レイの部屋の玄関のドアが閉まる。すでにそこにはレイの姿はなく部屋の中には壊されたゲンドウの眼鏡が月明かりに照らされて残されていた。
戦略自衛隊はネルフ本部への侵攻を開始、エヴァパイロットの保護を指示するミサトだがレイの所在はつかめない。
セントラルドグマ、LCLの水槽に浸かるレイがいる。地面にはきちんと畳まれた制服がある。
司令部への攻撃が開始、LCLの水槽の前でリツコに破壊されたスペアの体を見つめている裸のレイのもとにゲンドウが現れる。
「レイ、やはりここにいたか」
ゲンドウの声に振り返るレイ。暗闇から現れたゲンドウと向かい合う。
「約束の時だ・・・さあ、行こう」
銃弾を受け傷ついたミサトはシンジをエヴァのケージに向かわせた。一人倒れ込むミサト、「ペンペン、加持君、あたしこれでよかったわよね」、その前に現れミサトを見下ろす光を帯びた制服姿のレイ。その直後に爆発が起こり全てがかき消された。
ターミナルドグマ。ゲンドウとレイが並びリリスを見つめている。LCLの水槽の際に座っていたリツコが立ち上がる。リツコは銃を取りだしゲンドウに向ける。ゲンドウの後ろに立つレイ。 「母さん、一緒に死んでちょうだい」リツコはポケットの中の自爆スイッチを入れるが作動しない、そしてカスパーの裏切りを知る。ゲンドウは銃を取り出しリツコを撃つ。LCLの水槽に落ちてゆくリツコは一瞬、光を帯びた制服姿のレイを見る。
エヴァンゲリオン量産期の攻撃に倒れたエヴァ弐号機。シンジのいるエヴァのケージでベークライトで凍結させられていたエヴァ初号期が動き出した。
ターミナルドグマ、リリスを見上げながら並ぶゲンドウとレイ。「初号期が動き出したか」とゲンドウが言う。翼を広げたエヴァ初号期が地上に姿を現した。
リリスの前で向かいあうレイとゲンドウ。「アダムは既に私とともにある」、「ユイと再び会うにはアダムとリリスの禁じられた融合しかない」と言うゲンドウ。突然もげ落ちるレイの左腕、白い骨が見える。「時間がない、ATフィールドがおまえの形を保てなくなる」、「始めるぞ、レイ。ATフィールドを、心の壁を解き放て」、「そしてユイの許へ行こう」ゲンドウはレイの体に手を伸ばし、その右腕はレイの体に吸い込まれる。レイの体の中の何かを探ろうとするように動くゲンドウの手、目を閉じたレイが小さいうめき声を上げる。
天空で羽を広げるエヴァ初号機。エヴァ量産機に引き裂かれた弐号機を見てシンジは悲鳴をあげる。レイはそれに気づいたように目を開き、
「碇君」
シンジの乗るエヴァ初号機は天空でエヴァ量産機に拘引される。天空で図形を描く10体のエヴァンゲリオン。地表が融解し、ジオフロントが露出する。
リリスの前のレイとゲンドウ。「事が始まったようだ。さあ、レイ。私をユイのところへ導いてくれ」とゲンドウ、「まさか?」その時異変を感じレイの体から自分の腕を引き抜こうとするがその腕はレイの体にもぎ取られる。呆然とするゲンドウ。
「私はあなたの人形じゃない」
「私はあなたじゃないもの」
レイは自分の左腕を再生する。そのままリリスのほうへ向かうレイにゲンドウがすがるように言う。
「レイ、頼む、待ってくれ。レイ」
「だめ、碇君が呼んでる」
振り向きもせずにそう言って空中に浮遊しリリスと向かいあうレイ。
「ただいま」
おかえりなさい
そして、リリスの胸の中に入ってゆく。
レイと融合したリリスの足が一瞬のうちに再生される。杭で十字架に張り付けられていたリリスの白い両手がゆっくりと杭を離れていく。前屈みにLCLの水槽に倒れ込むリリス、その顔からゼーレの紋章の仮面がはずれて落ちる。それを見つめるゲンドウの前でリリスはレイの姿へと変化していった。
リリスは体を起こし司令部にいる人の体の中をすり抜けていく。
天空に拘引されている初号機と向かいあうリリスの顔に目が生まれる。レイの顔をした巨大なリリスを見て悲鳴を上げるシンジ。リリスを取り囲むエヴァ量産機の体からレイの顔が生えていく。悲鳴を上げるシンジ、「もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ」。鬱ぎ込むシンジの耳にカヲルの声が聞こえてくる、「もう、いいのかい?」。リリスの上半身からカヲルの体が生え、レイの体が後ろに反って後退していく。「そこにいたの?、カヲル君」安心するシンジ。初号機のコアをロンギヌスの槍が貫く。生命の木につつまれる初号機、その木に無数の目が生まれる。
リリスはカヲルの顔からレイの顔へ変化する。エントリープラグのシンジにささやくユイの声、「今のレイはあなた自身のものよ。あなたの願いそのものよ」
「なにを願うの?」
レイの声にシンジの心は思い出へと回帰していく。シンジの心の中に現れるありのままのミサトとアスカ。「あんたなんかに私のことが分かるはずがない」アスカはシンジに突っかかる。「分かるはずないよ、アスカはなんにも言わないもの。なにも話さないくせに分かってくれなんて無理だよ」シンジの答えにレイがつっこむ。
「碇君は分かろうとしたの?」
「分かろうとした」
「バーカ、知ってんのよ、あんたが私をおかずにしてること。いつもみたいにやってみなさいよ」、「あんたが全部私のものにならないなら、私何もいらない」アスカ
電車の中で向かいあって座るシンジとレイ。
「だったら僕に優しくしてよ!」
ミサトとアスカとレイの声。
「優しくしてるわよ」
「嘘だ、笑った顔でごまかしてるだけだ。曖昧なままにしておきたいだけなんだ」
「本当のことは皆を傷つけるから、それはとてもとても辛いから」
「曖昧なものは僕を追いつめるだけなのに」
「その場しのぎね」
「このままじゃ怖いんだ。僕の相手をしてよ、僕にかまってよ」そう叫ぶシンジの背後にレイとアスカとミサトが立つ。
シンジの心の中。ミサトの部屋で二人きりのシンジとアスカ。助けを求めるシンジを突き放すアスカ。「僕を助けてよ!、一人にしないで!、僕を見捨てないで!、僕を殺さないで!」混乱してアスカの首を絞めるシンジに、幼いレイの首を絞めるナオコの姿がだぶる。シンジの心に様々なイメージが流れていく。
「誰も分ってくれなかったんだ」
「何も分かっていなかったのね」
「嫌なことは何もない揺らぎのない世界だと思っていたのに」
「他人も自分と同じだと、一人で思いこんでいたのね」
「裏切ったな、僕の気持ちを裏切ったんだ」
「初めから自分の勘違い、勝手な思いこみに過ぎないのに」
「みんな僕をいらないんだ、だからみんな死んじゃえ!」
「では、その手は何のためにあるの?」
「僕がいてもいなくても、誰も同じなんだ、何も変わらない。だからみんな死んじゃえ!」
「では、その心は何のためにあるの?」
「むしろいないほうがいいんだ。だから僕も死んじゃえ!」
「では、何故ココにいるの?」
「ココにいても、いいの?」
無言
悲鳴を上げるシンジ。
巨大なリリスが身を起こす、その身体は宇宙にまで達している。リリスは光の羽を広げていく。リリスの両手の間に浮かぶ黒き月ジオフロント、その周りに集まっていく赤い光。「ガフの部屋が開く。世界の始まりと終局の扉が、ついに開いてしまうのか」冬月。
ネルフ本部、通路。戦いによって死んだ人々の死体の前に光を帯びた制服姿のレイが立つ。一つ一つの死体の前に現れる無数の制服姿のレイ。死体はLCLへと変わっていく。
「世界が哀しみに満ち満ちてゆく。空しさが、人々を包み込んでゆく。孤独がヒトの心を埋めていくのね」
ネルフ本部、司令部。日向の前に現れる制服姿のレイ、その姿はミサトへと変わりキスをする。日向の体がLCLへ変わる。青葉の前に裸のレイが現れる。怯える青葉、その体はレイに触れられLCLへ変わる。冬月の頭上から制服姿のレイが降りてくる、その姿はユイへと変わる。「碇、おまえもユイ君に会えたのか?」そう言い残しLCLに変わる冬月。
人類補完委員会、消えてゆくモノリス。「始まりと終わりは同じところにある。よい、全てはこれでよい」そう言い残してLCLへ変わるキール議長。レイの笑い声がこだまする。
セントラルドグマ。「この時を、ただひたすら待ち続けていた。ようやく会えたな、ユイ」、そう言うゲンドウの前にユイ、カヲル、裸のレイが立つ。
「ただ逃げているだけなんだ。自分が傷つく前に、世界を拒絶している」カヲル
「人の間にある、形もなく、目にも見えないものが」ユイ
「怖くて、心を閉じるしかなかったのね」
「その報いがこの有様か。済まなかったな、シンジ」
突然現れた初号機に食われるゲンドウ。落ちた眼鏡を包帯を巻いた制服姿のレイが拾う。その隣には幼いレイと裸のレイが立つ。
天空に列ぶレイの顔を持つエヴァ量産機がロンギヌスの槍を自ら自分のコアに突き刺す。地球を包むようにわき出す無数の光の十字架。黒き月の回りに集まった赤い光がリリスの手の中に吸い込まれていく。生命の木に包まれたエヴァ初号機がリリスの額に吸い込まれていく。
リリスの中、LCLの海に無数のレイが浮かぶ。
押し寄せてくる厭なイメージに苦しむシンジ。
「そんなに辛かったら、もう止めてもいいのよ」ミサトの声が聞こえる。
「そんなに厭だったら、もう逃げ出してもいいのよ」
「楽になりたいんでしょ、安らぎを得たいんでしょ」、「私と一つになりたいんでしょ、心も体も一つに重ねたいんでしょ」女性達の声が聞こえる。
「でも、あなたとだけは、絶対に死んでもイヤ」アスカの声が聞こえる。
シンジの心の中。移りゆく現実の風景。
「ねぇ・・・」シンジ
「何?」ミサト
「夢って何かな?」シンジ
「夢?」アスカ
「そう、夢」
「分からない、現実がよく分からないんだ」
「他人の現実と自分の真実との溝が正確に把握できないのね」
「幸せがどこにあるのか分からないんだ」
「夢の中にしか幸せを見出せないのね」
「だからこれは現実じゃない、誰もいない世界だ」
「そう、”夢”」
「だからここには僕がいない」
「都合のいい作り事で現実の復讐をしていたのね」
「いけないのか?」
「虚構に逃げて、真実をごまかしていたのね」
「僕一人の夢を見ちゃいけないのか?」
「それは夢じゃない、ただの現実の埋め合わせよ」
「じゃ、僕の夢はどこ?」
「それは、現実の続き」
「僕の現実はどこ?」
「それは、夢の終わりよ」
首から血を噴き倒れようとするリリス。
裸のレイがシンジの上にまたがっている。レイの腕がシンジの身体と融合している。
「綾波?、ここは?」
「ここはLCLの海、生命の源の海の中。ATフィールドを失った、自分の形を失った世界。どこまでが自分でどこから他人なのか分からない、曖昧な世界。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている脆弱な世界」
「僕は死んだの?」
「いいえ、全てが一つになっているだけ。これがあなたの望んだ世界、そのものよ」
「でも、これは違う。違うと思う」
「他人の存在を今一度望めば、再び心の壁が、全ての人々を引き離すわ。また、他人の恐怖が始まるのよ」
「・・・いいんだ。ありがとう」
レイと握手をするシンジ。
裸のレイは膝の上にシンジを抱いている。
「あそこでは嫌なことしかなかった気がする。だからきっと逃げ出してもよかったんだ。でも逃げたところにもいいことはなかった、だって僕がいないもの、誰もいないのと同じだもの」
レイとシンジの前に現れるカヲル。カヲルはシンジに問いかける
「再びATフィールドが君や他人を傷つけてもいいのかい?」
「かまわない。でも、僕の心の中にいる君たちは何?」
シンジと向かい合って制服姿のレイとカヲルが立っている。レイが答える。
「希望なのよ」
「人は互いに解り合えるかもしれない、ということの」
「好きだ、という言葉とともにね」カヲル
彼らの間に映し出される様々な世界。そして、様々な人々。
「だけどそれは見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。祈りみたいなものなんだ。ずっと続くはずないんだ。いつかは裏切られるんだ、僕を見捨てるんだ・・・、でも、僕はもう一度会いたいと思った、その時の気持ちは本当だと思うから」
レイとカヲルが並んで立つ、シンジを見送るように。
シンジと一緒に友達たちが映し出される。シンジを中心にアスカ、トウジ、ケンスケ、ヒカリ、ペンペン、ミサト、リツコ、加持、日向、青葉、マヤ、そしてシンジの後ろに隠れてレイが青い髪だけをのぞかせている。
倒れてゆくリリスの瞳から初号機が飛び出す。羽を広げる初号機。黒き月が砕け散り、赤い光が地球を覆っていく。
「現実は知らないところに。夢は現実の中に」カヲル
「そして、真実は心の中にある」
「人の心が自分自身の形を創り出しているからね」カヲル
「そして、新たなイメージがその人の心も形も変えていくわ。イメージが、想像する力が、自分たちの未来を、時の流れを創り出しているもの」
「ただ人は自分自身の意志で動かなければ何も変わらない」カヲル
「だから、失った自分は、自分の力で取り戻すのよ。たとえ自分の言葉を失っても、他人の言葉に取り込まれても」
リリスの首が地に落ちる。
エヴァ初号機が自らの口の中からロンギヌスの槍を引き抜く。それとともにエヴァ量産機の身体を貫いていたロンギヌスの槍も消えていく。
「自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もが人の形に戻れるわ」
地上から光の十字架が立ちのぼっていく。羽を折り畳み光を失うエヴァンゲリオン初号機。光を帯びたレイがその初号機と向かいあい見つめている。
「もういいのね?」ユイ
「幸せがどこにあるのかまだ分からない。だけどここにいて、生まれてきてどうだったのかはこれからも考え続ける。だけどそれも当たり前のことに何度も気づくだけなんだ、自分が自分でいるために」
LCLの海の中からシンジが浮かび上がってくる。
落ちたリリスの顔が二つに割れていく。
「さよなら、母さん」
エヴァンゲリオン初号機が闇の中へ消えてゆく。
波が打ち寄せる赤い海。
地上に横たわるリリスの頭部。
その水際に横たわるシンジと包帯姿のアスカ。
波間に立つ制服姿の綾波レイ。
一瞬の後、彼女は消えた。